かわいひでとし日記
思うこと、こころもち、脳内風景


2015.03.04   でかしゃった、でかしゃった、政岡の慟哭

人質にされ殺害された方たちのご遺族のコメントとか、殺人を犯した人物の親の

コメントとか、ここのところ、何度か目にする出来事が有りました。


自分の息子や家族が殺された、そのご遺族が

「大変お騒がせして申し訳ありませ んでした」というような謝罪の言葉を述べるのは、

日本では普通な事だけれど、 欧米などから見るととても驚く事なのだそうだ。


それで、こういう場合のコメントが立派だったとか、まずかったとか、あれこれ

言うのは酷な話だと思うので、そういう事を言うつもりはないのだけれど、、、。



新大久保駅乗客転落事故(2001年)というのが有りました。

ホームから転落した男性を救助しようと線路に飛び降りた日本人のカメラマンと

韓国人留学生が電車にはねられ死亡した、あの事故。

あれの報道の中で、韓国人留学生の父親のコメントという記事を読んだ時の事を

覚えている。

韓国の人というと、こういう場合、どうしても大声で泣き叫ぶイメージが、

つい 頭に浮かんでしまうのだけれど、

そのお父さんのコメントがとても立派で感動し たのでした。


あー、立派な方だなぁと思ったのを良く覚えているのだけれど、

その肝心なコメ ントが具体的に思い出せない、、、。

ネットで色々検索してみたけど見つかりませんでしたが、とにかく、

息子の死を 悲しむより先に、俯瞰した立場でその死の意義を語っていたと記憶しています。

ネットで探していたら、そのお父さんのこんな言葉が見つかりました。

死んで尊敬され、勲章をいただく息子より、親に迷惑をかけてくれたり、
心配をかけてくれたりしながら愛され、平凡であっても親の側で生きてくれるこ
とを望むのが、親の率直な気持ちではないでしょうか
息子の死は悲しくて悔しいですが、人命を救おうとして犠牲になったのだから、
息子を誇りに思います。日本が知りたくて、日本へ留学し、日本を好きになった
息子の死が無駄にならない事を願うばかりです



自分の家族が死んだ、という状況の中で、まず「お騒がせ致しました」

「ご迷惑 をおかけしました」というのは、やはり美徳だと思います。


こういう思考はどこから出てくるのか考えてみると、「公」と「私」を区別する

考え方なのだろうと思う。

息子が死んだから嘆き悲しむ「私」と、それにしても私の息子ごときの為に大勢

の方にお世話になり、大変申し訳ない気持ちですという「公」なのですね。


この区別をしっかり持っている人を「立派な人だ」と感じるのだと思います。




「伽蘿先代萩」(めいぼく せんだいはぎ)という歌舞伎が有ります。

この物語に登場する政岡(まさおか)という女性。

まだ幼少のお殿様、鶴千代に乳母(めのと)としてお仕えしています。

政岡は、息子の千松に、武士は命を投げ出してお殿様をお守りするのが務めだと、

常日頃から教育しています。

しかしこの大名家では、お家乗っ取りを企む悪い家臣達の陰謀が渦巻いていま す。


ある日、悪い家臣の一味が毒入りのお菓子を若君に勧めるのですが、

それを見た 千松が、急いでそのお菓子を奪い取って自ら食べたのでした。


毒で苦しむ千松を、発覚を恐れた悪の一味の八汐(やしお)が、

無礼だと言い、 短剣で突き刺しなぶり殺しにするのです。


その様子を若君を守りながら、息子を助けようともせずにじっと見る政岡。

悪の一味が立ち去った後、政岡は息子の遺がいを抱き寄せて、

「でかしゃった、 でかしゃった」

お前は武士として立派に死んだ、良くやった、と褒めながら泣き 崩れるのです。


親としての悲しみと、乳母としての義務と、

武士として育てた息子が立派にお毒 味の役目を果たした事を誇りに思う気持ちと、

いろいろな感情がないまぜになっ て、息子を抱き寄せて慟哭します。



この芝居、政岡をやる役者の見せ場がここです。

色々なニュースの色々なコメントを見ていたら、この芝居の政岡を思い出しまし た。


いい役者の、いい政岡が観たくなりました。

ん~しかし、今の海老様とか染五郎ちゃんとかじゃあ、まだちょっと、、、、。

相当年期の入った役者じゃないとこのシーンは演じられないと思いますねぇ。

観ているこっちまでつられて泣いてしまうような、良い政岡が観られるまで、

あ と30年くらい待たなくてはいけないかもしれません、、、、。

 

 


伽蘿先代萩



 


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